
黒神話:悟空
Black Myth: Wukong
開発: Game Science発売: Game Science¥7,590
アクションアドベンチャーRPG
PlayNext レビュー
孫悟空の伝説を知っているか知らないかで、このゲームへの入り方は大きく変わる。しかし、どちらであっても最初のボス戦で同じ感覚を味わうことになる。「これは本物だ」という確信だ。『黒神話:悟空』は、中国のインディースタジオGame Scienceが7年かけて作り上げたアクションRPGであり、リリース直後から世界中のゲーマーの度肝を抜いた作品だ。単なる話題作ではない。このゲームは、アクションRPGというジャンルに新たな基準を打ち立てた。
プレイヤーが操作するのは「天命人」と呼ばれる謎めいた存在。西遊記をベースにした世界で、かつて伝説の斉天大聖・孫悟空が残した遺物を求めて旅をする。ストーリーの核心には、悟空とは何者だったのか、そしてなぜ彼は敗れたのかという問いが横たわっている。旅の途中で出会う妖怪や神々、かつて悟空の仲間だった者たちとの対話を通じて、その真相が少しずつ明らかになっていく構成は秀逸だ。中国神話に馴染みがない日本人プレイヤーにとっては、見慣れない名前や概念に最初は戸惑うかもしれないが、ゲーム内のアーカイブ機能で丁寧に解説されており、知識ゼロでも十分に楽しめる。むしろ、知らないからこそ純粋に驚ける場面も多い。
操作感について言えば、これが本作最大の強みだ。主人公は棍棒を手に戦うが、その動作の一つ一つに重さと勢いがある。軽攻撃をリズムよく繋げて最後の一撃でフィニッシュを決める「蓄力攻撃」の気持ちよさ、そして敵の攻撃を直前で回避する「完全回避」が成功したときの爽快感は格別だ。さらに本作の差別化要素として「変化」システムがある。倒した特定の妖怪に変身し、その能力を一時的に使えるというもので、ボス戦でこれが刺さったときの快感はひときわ大きい。スキルツリーも複数の流派に分かれており、素早い連撃を重視するか、気力管理を重視した重い一撃を狙うか、プレイスタイルに合わせてかなり幅広くカスタマイズできる。
ビジュアルの完成度は、正直なところ現行世代のゲームでトップクラスと言っていい。Unreal Engine 5をフルに活用した森林、廃寺、雪山、灼熱の火の山といったステージは、どこをスクリーンショットしても絵になる。特に光と影の使い方が巧みで、木漏れ日の差し込む竹林や、松明の揺れる石造りの回廊など、美術的な完成度が高い。サウンドも同様に力が入っており、各ステージのBGMは中国の伝統音楽を現代的にアレンジしたもので、戦闘が激しくなるにつれて曲調が変化する仕組みが没入感を高めてくれる。日本語ローカライズも用意されているが、中国語オリジナル音声の迫力は別格で、字幕で原語プレイするのも強くおすすめしたい。
よく比較されるのはフロム・ソフトウェアのソウルシリーズ、特に『エルデンリング』だ。確かに高難度のボス戦と死んで覚えるゲームデザインという点では共通しているが、根本的な体験は異なる。エルデンリングがオープンワールドの探索と緻密なビルド構築に比重を置いているのに対し、黒神話はより一本道に近い構成でボス戦の密度と演出に全力を注いでいる。また、ソウルシリーズほど理不尽な罠や落下死に悩まされることは少なく、死亡時のペナルティも比較的軽め。そういう意味では、ソウル系に苦手意識がある人でも入りやすい設計になっている。一方でCapcomの『鬼武者』シリーズや、アクションの手触りという点では『仁王』シリーズに近い感触もある。ただしどれとも同一視できない独自のテイストがあり、「中国産ソウルライク」という括り方ではこのゲームを正確に表せないと感じるはずだ。
クリアまでの時間はプレイスタイルにもよるが、初見でボスに苦戦しながらも寄り道をそこそこしてプレイすると30〜40時間ほどが目安になる。やり込み要素も豊富で、隠しボスの攻略、各ステージに点在するレア妖怪の撃破、アーカイブのコンプリートなど、収集・探索が好きなプレイヤーには50時間以上楽しめるコンテンツが用意されている。ニューゲームプラスに相当する周回要素も存在し、初回では選択できなかったルートや結末が解禁されるため、ストーリーの深みをさらに掘り下げたい人にとっては周回のモチベーションも十分だ。
注意点もいくつか挙げておきたい。まず本作はマルチプレイを持たない完全なシングルプレイヤーゲームだ。オンライン要素を期待している人は対象外になる。また、一部のボスは難易度が急激に跳ね上がる箇所があり、アクションゲームに慣れていないプレイヤーは特定のチャプターで数時間詰まることも珍しくない。難易度設定の変更もできないため、この点は事前に心づもりが必要だ。加えて、PCスペックの要求が高く、最高画質で快適に動かすにはそれなりのグラフィックカードが必要になる点も現実的な壁になり得る。
こういう人には強くおすすめしたい。アクションゲームが好きで、歯ごたえのあるボス戦に達成感を求めている人。西遊記や中国神話に興味があるか、あるいは全く知らなくても異文化の世界観を楽しめる人。ソウル系ゲームは気になっていたけれど敷居の高さが不安だった人にとっても、本作は入門として悪くない選択肢になる。逆に、大人数で遊べるマルチプレイやオープンワールドの自由な探索を重視する人、繰り返し死ぬことにストレスを感じやすい人には合わないかもしれない。
7年という開発期間、中国の神話という特殊な素材、そして世界に向けて挑戦した一つのスタジオ。そのすべてがゲームの中に詰まっている。プレイを終えたとき、あなたは間違いなくこのゲームが作られた意味を理解するはずだ。
スクリーンショット











