Hollow Knight

Hollow Knight

開発: Team Cherry発売: Team Cherry¥850
アクションアドベンチャーインディー

Steam レビュー

非常に好評

PlayNext レビュー

地下深くに広がる廃墟の王国、ハロウネスト。その入り口に立ったとき、あなたはまだ知らない——この世界がいかに広く、いかに深く、そしていかに容赦ないかを。ホロウナイトは「メトロイドヴァニア」というジャンルの一作として語られることが多いが、それだけで終わらせるには惜しすぎる。虫という異形の存在たちが築いた文明の残骸を、名もなき小さな騎士として一人で探索するこのゲームは、探索の喜びと絶望、そして言葉にならない郷愁を同時に味わわせてくれる稀有な体験だ。 操作の基本はシンプルだ。攻撃、ジャンプ、ダッシュ。しかしプレイを重ねるほど、このシンプルさの中に驚くほどの深みが潜んでいることに気づく。敵の攻撃を弾き返すパリィを決めた瞬間の爽快感、魔法攻撃「ソウル」の使いどころを読む判断力、そして地形を利用した空中機動の精度——いつの間にか指がそれらを自然に覚え、序盤では歯が立たなかった敵を気持ちよく捌けるようになる。この成長の実感がたまらない。操作の慣性がわずかに残っており、ふんわりとした着地感があるため、最初は少し戸惑うかもしれないが、これがキャラクターの"重さ"として機能し、プレイヤーの動きに確かな手触りを与えている。 ゲームが本領を発揮するのは、ダンジョンの奥へ進むにつれてマップが大きく開かれていくときだ。最初は小さな町の周辺しか知らなかったのに、気づけば毒に満ちた湿地、古い工場の廃墟、真っ暗な茸の森など、まったく異なる雰囲気を持つエリアが次々と接続されていく。しかも、それらのエリアは単なる「次のステージ」ではなく、地続きに繋がっており、後から入手したアビリティで初めて通れる道が開くたびに、マップ全体への理解が更新される。「あそこに行けるようになったのか」という発見の連続が、探索の動機を途切れさせない。 ビジュアルは手描きアニメーションによる独特のモノクロームが基調で、光と影の対比が美しい。虫たちのデザインは不気味でありながら愛嬌があり、ボスたちの造形はどれも個性的で、初見で「こんな形の敵が来るのか」と驚かされる。グラフィックがシンプルなぶん、ときおり差し込まれる光の表現や背景の奥行きが際立って効果的に映る。音楽はクリストファー・ラーキンが手がけており、ピアノとオーケストラを組み合わせた楽曲がエリアごとの雰囲気を見事に表現している。静かで物悲しいBGMが流れる廃墟を歩きながら、この世界に何が起きたのかを想像していると、気づけば数時間が経っていた、という体験を何度もした。 物語はほとんど直接的に語られない。NPCとの会話、道端に落ちているアイテムの説明文、ボス戦後に残る断片的な記録——それらを組み合わせることで、ハロウネストという王国がたどった運命が少しずつ見えてくる。全部を理解しようとするならば積極的に情報を集める必要があるが、そうしなくても十分にゲームは楽しめる。むしろ「謎のままにしておく部分」が世界の神秘感を支えており、ネタバレを踏まずに自分で読み解いていくプロセス自体が大きな楽しみになっている。 同系統の作品と比べると、『メトロイドドレッド』の緻密なアクションや『オリとくらやみの森』の美しいビジュアルと感情的なストーリーはそれぞれ強みがあるが、ホロウナイトが特に抜きん出ているのはボリュームとコスト面だ。メインシナリオだけでも20〜30時間、追加コンテンツまで含めれば40〜60時間以上遊べる内容が850円で手に入る。この価格破壊的なコストパフォーマンスは、同ジャンルでもほとんど例がない。また、同じTeam Cherryのタイトルが他にないため比較は難しいが、世界観の密度と音楽の完成度については、インディーゲームの枠を超えた水準に達している。 難易度については正直に言おう——簡単ではない。ボス戦は特に手強く、何度も死んでパターンを覚えることが前提の設計になっている。ただし、理不尽さはなく、負けるたびに「次はこう対処すればいい」という答えが見えてくる。死亡時に「影」を残す仕組みがあり、取り戻しに失敗すると所持金が失われるペナルティがあるが、このハラハラ感がゲームのテンションを高めている。とはいえ、アクションが苦手な人や、ストレスを感じやすい人にとっては辛い場面もある。特に後半のボスはパターン把握と反射神経の両方を要求してくる。 こういう人には強くおすすめしたい。探索しながら世界の謎を自分で解き明かしていくことに喜びを感じる人、操作の習熟とともにゲームが変わっていく成長体験が好きな人、そして音楽と美術が一体となった雰囲気の中に浸りたい人。一方、明確なストーリーを順を追って楽しみたい人、アクションで詰まることへのストレス耐性が低い人、広大なマップを自力で把握することに苦手意識がある人には、少し向いていないかもしれない。 850円という価格でこれほどの体験が得られるゲームは、そう多くはない。ホロウナイトはジャンルの傑作であり、プレイ後には確かに「何かを旅してきた」という余韻が残る。廃墟の王国に生きる小さな騎士の物語は、それほどまでに完成されている。
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スクリーンショット

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